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インタビュー INTERVIEW

医療法人財団興和会 右田 敦之氏

右田病院の歴史と、地域のホームホスピタルという理念に込められた思いについてお聞かせください。

 当院は1919年、私の祖父の右田興根昇が創設しました。現在の病院長である右田隆之は、私の実弟で4代目、私は7代目の理事長になります。古くから地域に住む皆さんには、昔から「何かあったら右田さん」と言われており、2019年に100周年を迎えた際には、改めて、これからもそのようなお言葉を頂戴できる病院づくりをしていきたいという思いを持ちました。 「ホームドクター」があるのならば、「ホームホスピタル」と言うものがあっても良いのではないか。かかりつけ病院という位置付けを我々なりにつくろうと理念に掲げ、次の3つの行動様式を理念実現のために立てました。
 一つ目は、患者さん目線の「地域医療情報の発信」です。医療の原点は救急にあります。いつでも、どこでも、誰でも、まず受け入れることがそもそもの医療です。それは先代からの教えでもあります。患者さんの状態を見極め、当院でできることは責任をもって治療し、他の病院にお任せすべき専門分野が必要な場合は転送する。ハブのような形で適所に振り分けていきます。
 二つ目は、「安心と信頼を大切にした良質な医療の実践」です。人は不確実なことや不明確なことに不安を感じます。100%確実なこと、完全な安心感は持てませんが、安心に近づけるために信頼関係をつくることは出来ます。信頼の先にある安心を目指すことが、地域のホームホスピタルのネクストステージと考えています。
 三つ目は、「家庭的で患者さまに寄り添うサービスの提供」です。寄り添うという言葉は、治療に限らず、ターミナルメディカルケア、最近ではACPという言葉もあるとおり、どのような形で人生の最後を迎えるかというプランニングも含めて、超高齢社会における医療には必要とされる概念と捉えています。
 この三つの行動様式により、「地域のホームホスピタル」という理念を実現していこうと考えており、また少しでも永く住み慣れた場所で過ごせるように、行政指針で在宅医療の拡充を図っています。右田病院は、従来から救急医療の機能を持ち合わせているので在宅医療のバックアップが可能ですし、また、私たちからも必要に応じて在宅診療に出向く取り組みを始めています。

「かかりつけ」ということでしょうか?

 医療業界はジェネラルな医療の必要性を提唱していますが、対照的に医学教育はますます専門特化されて細分化しています。まさにジレンマの状況で、地域医療に求められるかかりつけに必要なジェネラルな機能を如何に実現するか。そのために、病院全体でかかりつけ機能を持つことは出来ないか。医師だけではなく、全てのスタッフが患者情報を共有することにより多職種連携で向き合っていく。そのような組織文化を作り上げることを目標としています。

右田病院さんならではの取り組み、特徴というと?

 戦前から多発性外傷の受入れを主体にしてきて、早くから整形外科を標榜したのですが、現在では主に高齢者の転倒などによる外傷治療、加齢による慢性的な腰痛や関節痛の治療にシフトしつつあります。昨今、地域医療構想の取組みを介して保健医療計画が策定され、地域に求められている病院機能を客観的に示そうと、医療資源の投入量と在院日数で病床機能を高度急性期、急性期、回復期、慢性期と四分類に分けて必要量を算定しています。当院は、救急~急性期の機能を有していますが、前述の整形外科領域などではリハビリまでやって在宅復帰を目指しているので、どうしても在院日数が長期化してしまいます。そこで急性期と回復期に分けず、首尾一貫して在宅復帰する発想となった訳ですが、機能分化を図る地域医療構想の考えからは外れてしまいます。種々の診療データを分析した結果、疾患によっては赤字になる面もありますが、トータルとしては何とか黒字になるというデータが出たので、回復期に位置づけられる地域包括ケア病棟の方が、患者さん本位な入院療養生活が送れることがわかりました。これまで急性期病院の位置づけでやってきたのに、回復期の領域に入るのも寂しいと感じていたところ、病院長から、「制度や定義、言葉にこだわるのではなく、医療の本質をみつめてはどうか」と言う意見もあり、全床地域包括ケア病棟ということにしました。制度変更リスクが考えられますが、やれるところまで現行体制で頑張るつもりです。  医療制度は大事で、病院経営においてはキャッチアップしていくことが必要です。国策がどちらの方向に向かおうとしているのかを肌感覚で理解することと共に、我々はどのような医療を提供すべきなのかを常に真剣に考え、その位置づけを制度上にうまく当てはめていくことが大切だと思っています。マーケティング的な概念と医療施策の概念が、ピンポイントで一致するように試行錯誤しているのが私たちの特徴かと思います。

近年、新クリニックや新病棟をオープンされておりますが、地元密着のためということでしょうか?

 まず新病棟については、高齢社会に向けて地域包括ケア病棟がこの地域における高齢者医療を担う役割になると考え、ニーズがあると思い増築しました。整形外科疾患の領域拡大だけではなく、在宅医療の後方支援が主要因になりますので、サブアキュートとして回復期の病床を増やさねばならないとの判断です。
 ところが、竣工して早々に新型コロナのデルタ株による第5波があり、右田病院も本格的に陽性患者を受け入れるよう、強い要請がありました。第1波から二次救急として発熱患者の受け入れは積極的に行いながら、小規模病院なので入院加療の実施には至っていませんでした。コロナ患者を受け入れるにあたり補助金を受けないことにはまったく経営が成り立たず、補助事業の規定では1看護単位での申請が規定されている。当院は3階と4階の2病棟なので、ワンフロアが1看護単位となるため、ワンフロア全部を感染病棟にしなければならなくなる。新型コロナが収束した後の平時への復帰を考えると、病院の半分を感染病棟にすることは経営面で不安を感じました。それでも看護部幹部の方から「中途半端に病棟をゾーニングしてひやひやするより、病棟すべてで取り組んだほうが私たちも楽です」との声があがり、実行に踏み切りました。
 感染症患者の受入れが地域の要望である限り、やれることはやる、と考えるのは、それも地域のホームホスピタルとしての責務です。補助金は、感染対策上4人部屋を個室使用したり、即応のために感染病床を空床確保したりと、感染症患者を受け入れるために生じる機会ロスは大変大きいので、それを補填するためのものです。補助金支給については何かと物議を醸していますが、自力で資金調達する民間病院では補助事業が立ち上がらないことには絶対に運営ができません。補助金により、コロナ患者の受け入れが可能になったことは言うに及ばずです。
 クリニックの開設は、そもそも乳がんのマンモグラフィ検診への参画を地区医師会から要望されたことが契機でした。当初はビルのテナントスペースの都合で、女性専用の健診機関でしたが、手狭になったこともあり、新築移転しました。新クリニックをリニューアルオープンしたことで、男性を含めた企業健診も受けることが可能になりました。健診については後発でもあったため、従前からの女性専用の方針を活かしつつ、女性をターゲットにマーケティングを重ねて健診事業に参画し、ニッチから少しずつ広げていく発想で今後どのような形で地域に浸透させていくべきか、日々試行錯誤しています。

看護師さんの人材確保は大変ではありませんか?

 大変です。事業拡張のため増員が必要なので、中国やベトナムの外国人看護師も積極的に採用を行っています。外国人看護師の人たちは、母国でも資格を持っていて、優秀な学校を出ている人たちも多く、ある意味でエリートです。毎年4~5名採用していて、既に20名近くが在籍しています。コミュニケーションが難しい面も多少ありますが、とてもピュアで良い人たちばかりです。もちろん、日本人スタッフの雇用についても、年間を通した採用活動の重要性を法人幹部に理解してもらい、実行計画を立ててもらっています。人材確保の礎となる考えは育成であり、コストではなく「人財投資」と視るべきでしょう。

 昔から八王子と共に歩んできました。今後も地域の一員として貢献したい気持ちでいます。「何かあったら右田さん」と言われていた時代と比べて、現在の医療情勢は大きく変わっていますが、右田病院は「地域のホームホスピタル」として地域のかかりつけ機能を有し、みぎたクリニックは永く健やかに過ごせる社会づくりに携わっていきたいと思っています。