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インタビュー INTERVIEW

医療法人社団康明会 遠藤正樹氏

――南多摩医療圏病院管理研究会が果たす役割・意義、また今後の展望をお聞かせください。

当研究会の大きな目標の一つは、病院・介護施設は社会資本という前提のもと、国や行政等に対する〝声〟を集め発信することです。ただ、実はもの申すだけでは片手落ちなのです。
新型コロナウイルス感染爆発以降、病院受付にタブレット端末が置かれるようになりました。この〝コンタクトレス〟は今後、当たり前になるでしょう。また、人工知能AIによる診断技術、検査機器等の技術革新も加速度的に進んでいます。DX、デジタルトランスフォーメーションですね。
その一方で、患者さんの顔を見て異変を察知し、迅速かつ適切に対応するなど、DXや人工知能にはできないことがあるわけです。そうした医師・看護師らの経験にもとづく知恵のほとんどはノンバーバル(言語以外で行うコミュニケーション方法)なものです。

DX・人工知能を含め、時代の要請に対応しつつ「真のホスピタリティ」を実現する、そのために必要なノウハウ・スキルをともに学んでいく〝場〟を、当研究会は提供していきます。つまり、リモートセミナーの開催です。働き方改革の観点から、自宅で学べるような内容、かつインタラクティブ(双方向)なリモートセミナーを提供したいと考えています。

いずれにせよ、医療を取り巻く諸問題を解決し、患者中心医療の実践を支える医業経営・運営を可能にするためには、同一医療圏の病院でネットワークを構築、知恵やノウハウ、情報等を共有していかなくてはなりません。

――医師の力だけでは患者中心医療・医業経営は成り立たない時代だということでしょうか?

はい。南多摩医療圏の特性を見てもそうでしょう。ご承知の通り、南多摩は対人口比病床数が少ないうえに、医療機関の90%は民間病院です。国の新型コロナウイルス対策、患者さんの即応病床を割り当てられた医療機関への補償について議論が始まった当初は公的医療機関だけ保障するという話でした。このようなことからも、南多摩の民間病院がネットワークを構築する必要があるだろうと思うわけです。それは新型コロナ対策のみならず、これから地域医療・患者中心医療を推進していくうえでも不可欠だと思っています。

――会長が理事長を務める「康明会」での具体的な取り組みと経営計画について教えてください。

昭和25年に初代の田中先生が当時無医村だった日野市に診療所を開所して以来、田中先生の意志を引き継いで地域医療を実践してきましたが、超高齢化社会を迎え、地域医療をもっと深堀りしていきたいと考えています。

具体的な取り組みをご紹介させていただくと、まずバッグベッドの確保があげられます。これにより、在宅患者の病状が変化した時、身近な病気であっても即入院ができるわけです。

2つ目は、何かあればすぐに医師・看護師が自宅まで駆けつけ、〝本当に困っている人〟に必要な検査、医療を届けることです。例えば、患者さんにコロナの疑いがある場合、PCR検査も在宅で受けていただき、陽性が判明したら状況に応じて適切な処置・対策をしていく。介護をしている方が病気になった場合は、介護されている方は当病院で2週間程度過ごしていただき、健康チェックをする。医療のみならず、患者さんやその家族の生活問題も含めて、我々が支えていくミッションがあるだろうと思っています。

3つ目は外来の取り組みです。まず、新型コロナウイルスのパンデミックを見据え、接触機会を必要最小限にするために、オンライン診療・電話再診を実施しています。そして、外来を受診する場合は完全予約制としました。
従来は、医療を提供する側が「何月何日に病院に来てください」と患者さんにお願いしていたわけです。そして、患者さんに付き添う方は、いつもより早く起きて支度し、車の手配をし、病院に着いたら何時間も待つのが普通だと。そのことに違和感を感じる医療者は少なかったのですが、患者さんとその家族の立場で考えると「おかしい」のです。そこで、外来は完全予約制としました。
75歳以上で運転免許証を持っていない、あるいは返納した方の中には、公共の交通機関を利用して通院するのが困難な方もいます。タクシーを呼ぶにも費用がかかるため簡単には使えない。そのような方には、予約時間に応じて当病院からお迎えにあがる。そして、病院で必要な検査を行い、診断を確定し、ご自宅までお送りする。場合によっては、築地のがんセンターなどの拠点病院、大学病院へお繋ぎする。
地域住民の命と健康を守る医療法人として、それを実施する使命があるだろうと思っています。

また、当院では現在、360数名の医師・看護師らが一生懸命働いておりますが、今後はAI人工知能にはできない救急医療と訪問医療、難治性疾患の治療に時間と能力を集中できるようにしていく方針です。

とはいえ、われわれだけの力では、このミッションは果たせないと思っています。今回のパンデミックを境に〝コンタクトレス〟な受診を可能にする技術が入ってきますし、加えて検査機器・技術の革新もまさに日進月歩です。
危機管理のノウハウを持った企業さん、あるいは技術革新を進めている検査機器会社さん、その他、色々な知恵・ノウハウをもった企業さんとコンソーシアム(共同事業体)を組んで進めていくのが、当会の経営計画です。

――遠藤会長が思い描く康明会と研究会の未来について教えてください。

社会の急速な変化に対応するには、臨床の現場を支える人、つまり戦略的マネジメントができる人材がいることが重要と言えるでしょう。ちなみに、私は三代目理事長なのですが、私は血縁者でも医師でもなく、政策参謀として理事兼本部長を務めている中で、理事長を拝命しました。

今、国は医師等の働き方改革を推進していますが、当会も医師や看護師らが安心して働け、患者さんとその家族のことを他人事ではなく「一人称」「二人称」で考える、そういった患者中心医療に注力できる職場環境を整えたい。そういう意図もあり、社会医療法人へ改組していく準備を進めているところです。
縷々申し上げましたが、みなさんの病院でも、新型コロナ対策、働き方改革、DX、医業経営、マネジメント等々、いろいろな知識・ノウハウ・スキルをお持ちかと思います。そうしたものを会員同士で教え合い、ともに地域医療のあるべき姿を創造する。南多摩医療圏病院管理研究会は、そのような〝共創の場〟なのです。

新たに誕生する子どもたちが医療を受けることができなくなってしまう、そんな未来があってはなりません。未来永劫、安心・安全で質の高い医療を受けられるよう、医業経営者並びに政策参謀等のスーパーゼネラリスト育成・養成していきたい。それが私の願いであり、当研究会の存在意義でもあるのです。